挨拶 「先端研究拠点事業プログラムについて」等
  sawa
                 澤 芳樹
     高齢化社会において虚血性心疾患は増加の 一途を辿っていますが、心筋梗塞後に高度の心不全症を呈する虚血性心筋症に対する治療法は未だ確立されていません。本邦では心臓移植はドナー不足が深刻な問題であり、補助人工心臓は最終治療として依然問題が多いことから、安全性と治療効果の高い再生医学的治療法の開発が求められています。現時点において最も有望だと考えられているのは、体外において作製した心筋組織を移植する心筋組織移植法です。我が国のこの分野における研究レベルは世界的に高い水準にあり、iPS細胞研究の急速な発展を考慮すると、今後大きな成果が期待できる先端研究分野であります。この度、私達は日本学術振興会の「先端研究拠点事業」に採用され、心筋再生研究分野における国際的・持続的な研究交流ネットワーク構築を通じて、世界的水準の研究交流拠点の形成と次世代の中核を担う若手研究者の育成を行います。

  再生医学を実際の医療として成立させるためには、基礎医学、臨床医学のみならず、新しいバイオマテリアルの開発やバイオリアクターの設計・開発、そして、細胞・組織の品質管理など学際的な幅広い技術が不可欠です。しかし、残念ながら、我が国において、そのような連携を国際的ににとりうる研究拠点は見あたりません。大阪大学ではこれまでに温度応答性培養皿を用いて自己筋芽細胞シートを作成することにより治療効果の高い細胞移植法を開発し、重症心不全患者に対する心筋再生治療を開始してきました。またこの技術を応用して、フィンランド・ヘルシンキ大学、ドイツ・ハノーファー医科大学との間で二国間共同研究を行い、肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor; HGF)等を遺伝子導入した筋芽細胞シート移植の実験や、脱細胞化小腸粘膜下組織(BioVaM)を用いた3次元心筋組織の構築の研究を行ってきました。今後、末期心不全患者に対する心筋再生療法の更なる進展のため、これまでの成果をふまえて、遺伝子治療の先進国であるフィンランド・ヘルシンキ大学と組織工学(Tissue Engineering: TE)の分野で世界的な業績を挙げているドイツ・ハノーファー医科大学との協力関係を強化し、大阪大学で開発した心筋細胞シート技術を各国独自の技術と融合させ、京都大学等国内機関とも協力して、iPS細胞を含めた自己細胞を細胞ソースとし、臨床応用可能な3次元心筋組織の開発を行い、これを用いた重症心不全患者に対する新たな心筋再生治療法の開発を行います。

  再生医学が医療として定着するには、おそらく数十年にもわたる地道な努力が必要であり、まずは、そのための人材育成が重要です。本事業では、基礎研究から試験的治療までを一貫して施行できるシステムを作り上げるだけでなく、教育機関としての特徴を生かし、将来の再生医学研究や、そのトランスレーショナルリサーチを指導していける人材の育成をおこないます。本事業は、始めの2年間は「拠点形成型」として我が国と他の学術先進国の研究者が研究協力網の基盤となる協力関係を短期間に形成し、その後3年間の「国際戦略型」へ発展させます。国際戦略型では長期的な視野のもと、研究機関間で構築した研究協力関係を発展性及び持続性を備えた国際学術交流拠点として拡充するための戦略的な取り組みを行います。事業計画は5年間という短い期間ですが、臨床への応用や人材の育成をも含めて十年、二十年にわたり活動できる新たな再生医学の拠点へと成長させていくことを目指していきます。

  これまでの医学系研究における国際学術交流活動は、どちらかというと一方通行的な交流にとどまっていました。本事業による国際学術交流はそれとは異なり、交流国間での相互交通を伴う両方向的な学術交流を促進するとともに、単発の人材交流ではなく持続的な研究員の派遣を通じて更に活発で効果的な学術交流を目指しています。本事業は、「地域に生き世界に伸びる」の大阪大学のキャッチフレーズの下、再生医療という今世紀の医療のトピックについて大阪大学医学系研究科の研究成果・技術を交流施設の持つそれと相乗させることにより、よりいっそうの研究教育活動の発展を目指します。

2009年4月
澤 芳樹

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